88)体って本当に不思議だなと。
筋電義手以外にも、VR技術や、人工内耳、遺伝子治療、出生前判断など、私たちの体をとりまく科学技術は日々進歩しています。そして、それに伴って、私たちが自分や家族の体に対して介入しうる「人為」の領域は増大しています。もっとも、技術があるといつしか使うことが当たり前になり、「使わない」と言う選択をすることがかえって難しくなるのも世の常です。人間の体に徹底的に介入して、その能力をエンハンスし、体をサイボーグ化していくことが、結果として本人の幸福につながるのかどうかは、また別問題として考えなくてはなりません。いずれにせよ、どの時代、どの社会状況にも、それに応じた選択肢の幅があり、それぞれの人がそこから何らかの選択をして、自らの体を作り上げていく。この事実は、いかに科学技術が発達したとしても、変わりません。
記憶する体
装丁=野津明子
カバー絵=坂口恭平
春秋社 / 2019