ほくそんの図書室

気まぐれな小さい図書室。

『「サル化」する人間社会』

 

78)山極さん良いよと教えてもらってこの本を読む。

 

ゴリラなどの霊長類から、人間とは何か研究している先生です。

 

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第1章 なぜゴリラを研究するのか

 

人間性」とはいったい何なのか?

 

人間の本性を知りたいと考え、そのためにどんな学問を学ぶと良いだろうと思い選択したのが人類学であった。

 

人類学は人間の根源を追求し、人間とは何かを研究する学問である。しかし中世以前の西洋では、キリスト教的世界観が主であり、「神の姿に似せて作られた」人間というものが一般的な考え方であった。ゆえに西洋で生まれた人類学は、はじめ人間の文化や社会のみを扱っていた。

 

そんな中、動物と人間の間に絶対的な境界を設けていない戦後の日本で、人類学に新たな視点をもたらす新しい学問「霊長類学」が生まれ、人間や人間性の起源を辿り、そこから現代の社会を解明しようとした。

 

第2章 ゴリラの魅力

 

私たち人間よりも、ゴリラの方がよほど余裕がありゴリラは人間を受け入れてくれる。そして、ゴリラは私たちにゴリラ社会のルールを教えてくれる。

 

またゴリラ社会には優劣の概念がなく「負ける」という概念を持たない。序列のあるサル社会では、優位なサルの前で劣位なサルは決して食べ物に手を出さないが、ゴリラ社会では食べる事は食欲を満たす以上のものであり、食物を共有することに大きな意味がある。

 

そしてゴリラには遊ぶという高度な能力があり、相手を傷つけないようどれぐらいの力加減だったらいいかと判断する能力や、相手の気持ちを汲む共感能力が必要である。

 

ゆえに、人間の祖先は、他の野生動物と共存する暮らしをしていたのではないかと思う。

 

第3章 ゴリラと同性愛

 

グループで行動するゴリラたちは、オスが一頭、メスが複数の集団を作る。

 

しかし著者が見つけた集団に、オスしかいないという特殊な集団を発見した。

 

どのような関係性なのか観察すると、オス同士での性行為が見られ、なんと「同性愛」を認め合った集団だった。

 

その頃仲間のアメリカ人研究者が「ゴリラの幼児性行動」を研究していて、ゴリラの子供たちが性的な遊びを頻繁にしていることを発見した。

 

子ども同士の性行動は遊びの延長に見られる。遊びの中で始まるので相手の性別は関係なく、オスとメスで行われることもあれば、オス同士のこともある。もともと優劣を意識しない関係において、性行動によって解消されるべき優劣がそもそもないので、性行動はより起きやすいということが成り立つと考えられた。

 

サル社会では、ゴリラに見られるようなオスの同性愛行動はめったに見られない。見られたとしてもこの時に性的な興奮はない。

 

私(著者)は霊長類の研究を通して、人間には同性愛行動を起こしやすい性質が進化の遺産として受け継がれている、と考えるに至っている。人間に備わった遊びの能力や、優劣をつけない社会性を考えれば、同性愛の発現も不思議なものではない。

 

第4章 家族の起源を探る

 

ゴリラの社会は、大人になると娘は母親のもとを去り、ヒトリオスと出会って群を作るパターンもあれば、既に複数のメスを抱えているオスの群れに入っていくこともある。

 

ゴリラには縄張りはないが、メスの移籍が起こり得るため集団同士は敵対的である。

 

しかし、人間は地域社会と言う大きなコミュニティの中に属しながら、同時に家族と言う集団にも属すると言う非常に複雑な仕組みを作り上げる。

 

人間の家族はゴリラの群れのような特徴を備えた形から、次第に家族(集団)同士の対立が薄まっていき家族と家族が協力し合うコミュニティが作られていったと考えられる。

 

また、親子が性の相手をめぐって競合することがないよう家族の中では夫婦の間柄にあたる男女にのみ性行為が許され、それ以外の異性間には禁止されている。「インセストタブー」(近親間の性交渉の禁止)と呼ばれる。

 

人間以外の動物にもインセストを回避する傾向が存在していることがわかり、人間社会に見られるインセスト・タブーは、すでに遠い昔から備えられていたと考えられる。

 

第5章 なぜゴリラは歌うのか

 

最新の研究で西ローランドゴリラは特定の状況で歌うと言うことがわかってきた。ゴリラの歌には主に「フート」と「シンギング」「ハミング」などの種類がある。

フートとは、「ホーッホッホッホ、ホーッホッホッホ」と離れたもの同士が鳴き合うときに使われ、人間の鼻歌(ハミング)のように聞こえる。

 

シンギングは、「ホォー、ホォホォー」で満足音で、ハミングはゲップ音に近くみんなでご飯を食べながら「おいしいね」「みんな幸せだね」とみんなで歌っているように聞こえる。

 

ゴリラは集団で移動するが、個々で果物を探すときには分散する。そのときに自分がどこにいるか歌って伝えているのだと考えられる。

 

ゴリラはフェイステゥフェイスのコミュニケーションを好み、食事をするときも互いの顔が確認できる距離に集まる。そこでは強いものが弱いものに食べ物を分け与えるという行為が見られ、食べ物の分配行動は、人間性や人間の社会の要となるものの1つだと言える。

 

第6章 言語以前のコミュニケーションと社会性の進化

 

人類は誕生して以来数百万年もの間、言葉を使わずに暮らしていたことは間違いない。

では、言葉が生まれるきっかけとは何だったのか。

 

人類は進化の大半を言語を持たずに歩んできたが、これまでにない複雑なコミニケーションを仲間内で取る必要が出てきた。人類が生きるために最も必要なものそれは、食料を獲得することである。

 

チンパンジーやゴリラは熱帯雨林に残ったが、私たちの祖先は猿人類と共生することができず、食料豊かな森を離れてより過酷な環境へと身を置くことを選んだ。

 

草原に進出した人類は、二足歩行と多産の道を歩んだ。手のかかる人間の子供を守り育てるためには母親1人の手だけによらない、共同での保育が必要だったと考えられる。そのとき新たなコミニケーションとして「子守唄」が生まれたと考える。

 

人類は子育ての必要性から「家族」を作り、「共同体」を作った。

 

この共同体の規模は脳の発達と比例しており、人間の脳が大きくなった理由は、社会的な複雑さに対応するためだとイギリスの人類学者であるロビン・ダンバーはいう。

 

 

第7章 「サル化」する人間社会

 

現在、コミュニケーションとしてあったはずの「共食」の習慣が消え、家族の崩壊ということがよく言われる。

家族の崩壊は人間性の喪失であり、見返りのない奉仕や、互酬性、帰属意識を失うことを意味する。

 

通信改革が人間社会にもたらした変化は大きく、個々が自由になる一方で対面的なコミュニケーションが失われかけている。人間は、生身の体をなかなか乗り越えられないものである。現在はインターネットが普及し生身でないコミュニケーションに傾いているが、どこかで自然回帰的な動きが生じてくるだろうと思う。

 

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ゴリラの同性愛には驚いた。同性愛は精神疾患だとか子育ての仕方が悪いとか言われていたときもあったが、歴史を辿ることによって見えてくるものがある。起源を辿ることは大切だと思った。

 

どうして人間は家族を大切にするのか、どうして人間は二足歩行をするようになったのか…進化には全て理由があり説明できるのだと思った。歴史って面白いなあ

 

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「サル化」する人間社会 (知のトレッキング叢書)

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